汎用化テクノロジーと拡張感覚による観察

ブリードルーム

ドローンは生身の人間が見ることのできない風景を拡張感覚的に可視化する機器だと気付いた。読者は誰かが撮った航空写真と比較した場合に同じだと考えるかもしれない。しかし、自分の意思で飛ばしたドローンの場合は、あたかも自分がその場に行って見た光景だと錯覚している。現代はテクノロジーの発展に伴い、最も尊い観察するという行為の意味を変化させるかもしれない。

写真は月夜野きのこ園から遠くない沼田の河岸段丘である。教科書にも載る日本一有名な河岸段丘は、タレントのタモリさんが吸収から上京してすぐに行った場所としても知られている。しかし、このドローン写真はタモリさんが見た光景ではない。当時なら生身の人間が飛行機かヘリに乗らないと見えない景色であり、今は手の平の上で操作しながら見た気になれる絶景なのである。

二〇〇〇年代前半はかつて手の届かなかった高度な機器や計測器が一般人でも手の届く値段まで落ちている。例えばGPSは軍事技術だったものが汎用化され、今やスマホの中に標準装備されている。クワカブ研究所では、生身の人間で検知できない視点を汎用化されたテクノロジーで新たな気付きが生れないか試している。前回の記事ではサーモカメラを活用したが、その他にも連続記録可能な温湿度計、光度計、動態検知機能付き暗視カメラなどがブリードの新たな道を模索している。

ドローンは野外採集のフィールド調査に使えるだろう。現代は共有化革命が起きており、カメラがなくても機器や計測器から簡単に写真やデータが出力できる。視覚化された情報は容易にシェアすることができ、複数人の知見を集める易くなる。機器や計測器を自分で操作すれば、我々の肉体と感覚は新たな拡張機能を有することになり、観察という最もシンプルで重要な行為がより高く、広く、深く、小さく、長くできるようになる。(吉虫)

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