
「くるーきっとくるー」。筆者はホラー映画を見ないが、「リング」の主題歌にあるフレーズくらい知っている。ブリードは累代を繰り返すと問題が出ると聞くので「きっとくるぞー」と待っていた。ドキドキしながら累代を続けること五世代、異常事態は予想通り発生した。意外だった事はベテランのブリーダーでも知らない症状であった。
昨年から検品担当者はオオクワガタの一部に「ツメ開かない」と書いてはじいてた。初見だと症状のあるツメは短く見え、閉じたままだった。二本のツメはドライバを間に差し込むと力なく開いた。思いがけない収穫は直接関係ないが、ツメの間にある二股に分かれた橙色の触角が顕微鏡でみえたことだった。
そもそも「ツメ開かない」という症状は言葉の通りに、フセツの先にあるツメが閉じたままになっている【写真1】。通常のツメは何かをひっかけようとすると開く【写真2】。実験では症状のあるツメで蒲鉾板に引っ掛かるかを試した【写真3】。実験の結果は一二頭中一一頭が症状のあるツメで板をかけられなかった。ひっかける事のできた一頭は一見して爪が開かない様に見えるが、板にひっかけるとツメが機能した。(見せかけの症状)
次の実験は個体を裏返しにして暴れさせた時に肢、フセツ、ツメがどの様な動きをするかを調べた。症状がある肢はフセツが肢の動きと連動せずに、ダラリとしていた【写真4】。この時点での推定だが、「ツメ開かない」はフセツのマヒに関係するかもしれない。マヒ症状は累代数が少なくても起きていた。
オオクワがツメを使う場面を観察すると、一番使う肢は前肢、続いて後ろ肢の様に見える。「ツメ開かない」は集計【グラフ】から六割以上が中肢、三分の一が後肢、僅か数%が前肢に確認された。この分析は後編に記述する推定原因の一つに関係する。次回は可能性のある三つの原因と試みについて書きたい。…つづく(吉虫)


