物事は上手く行けば全て安泰という訳でなく、新たな問題点が必ず現れる。ここ三年間、クワカブ研究所は、オオクワガタの幼虫頭数、羽化率で大幅な改善を遂げた。
その一方で、羽化頭数は一年でさばける範囲を超え、余らせる結果となってしまった。
二〇二〇春シーズンは生産量を落としつつ、コストを下げる戦略に踏み込む決断をした。
研究所は生物学的と工学的なアプローチを平行して行っている。生物が最高のパフォーマンスを出す生産工程は何かを追求している。
二〇一九シーズンまでは、一度のペアリングからメスに三回の産卵機会を与えていた。三回目は、あくまでも頭数を確保するための保険であった。
過去三年の結果を振り返ると、二回目までの合計産卵数は、全幼虫数の約85%を占めている。生産効率を示す「産卵回数毎の平均幼虫数」は、特に二回目の産卵(SR2)が改善され、十分な頭数が確保できることが分かった。
三回目の産卵(SR3)は、全幼虫数の約一五%の比率なので止めても、頭数確保に問題なく、むしろ工数と材料が減らせると判断した。
一つだけ心配な事は、最大サイズのオスが直近の二〇一八春シーズンに三回目の産卵で生まれていたことだ。つまり、最大サイズのオスは犠牲になる可能性がある。
決断とはリスクの選択であり、メリットのために犠牲を覚悟することだ。残念ながら、三回目の産卵は、今後データとして残らないことになり、後悔さえできなくなる。(吉虫)