そこに野山がある限り

ブリードルーム

この写真は二二年五月十日に撮影された。

今年もまた田植えの季節がやってくる。私は歴史好きで繰り返す営みも好むが、繰り返される災害、疫病、危機も慈愛と感嘆を持って見つめている。コロナ禍は過去の疫病から三年で落ち着くだろうと予測していた。時代はらせん状に流れ、繰り返しながら変化する。

コロナ禍は昆虫業界にとってプラスに働いた一面もあった。その後の世界景気の回復やウクライナ戦争による物価高騰は業界にとって負の方向へ働いた。また、オークションサイトの閉鎖はブリーダーが育てた虫たちの行き先を減らし資金源を目減りさせるだろう。加えて絶滅危惧種の保護は外国産の飼育にブレーキをかけてしまう。

業界の人はまた厳しい時期が来たと、耐え忍ぶ方向に舵を切っている。二○○○年代初頭の甲虫ブームで金儲けや流行に飛びついた人たちは業界にほとんど残っておらず、根を張った人たちが地道にブリーダーを支えている。だから、多少のアップ&ダウンは当然のものと考えているようだ。

さて、日本は奈良時代の頃から虫の鳴く声を歌にしてきた。江戸時代の頃、カブトムシやクワガタムシは子供たちがバトルをさせて親しんだ生き物だった。行動成長期以降の甲虫飼育ブームは都会に移り住んだ人たちに火をつけ、ムシキングを頂点とする甲虫ブリードは飼育方法の確立という技術の革新が多いに手助けとなった。昆虫は野山の多い日本で身近な生き物であり、ブームが繰り返されても不思議でない。

昨今の物価高騰はむしろ春の寒暖差の様なものかもしれない。歴史的観点から現代を俯瞰すると、我々は世界が大きく変わる時期に生きている。昆虫業界も時代のうねりの中で次に訪れる変貌の時を見つめている。ただ、昆虫との生活は日本文化であり、そこに野山がある限り完全に廃れることはない。(吉虫)

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