
何年も経験を積んでも、「思ったのと違う」という場面はある。悪い結果は悲劇に、良い結果は幸運に感じてしまう。想定外の事は経験値だけでなく、データを使っても起きる。この世界は人知を超えた複雑さを持ち、データ解析で見付ける相関関係の裏に、因果関係のない疑似相関の罠が潜んでいる。
実際に起きた事は、オオクワの二令幼虫育成を部屋の都合で高い温度でやったことだ。室温二十五℃以上の環境は幼虫にとって高過ぎ、二令幼虫の死亡率が上がると過去に分析していた。ところが、二四年春ブリードは二七℃を超えていたが、死亡率が過去最低の見込みだ。幼虫の死亡率は室温と相関関係にあると思い込んでいたが疑似相関の様だ。
そもそも、相関関係とは一方が変化すると他方も変化することをいう。二つの事柄は比例、又は反比例の関係に近いほど相関関係が強いとされる。相関関係の事例は気温が高ければ、アイスの売上が上がるといったことだ。ふりかえると、室温と幼虫死亡率の関係は実験と解析が不十分で、因果関係がないと分かった。
疑似相関は相関関係に含まれるが、因果関係にない。別の言い方をすると、相関関係は計算上で相関するだけで因果関係を示すものでない。例えば、熱中症患者数とアイスの売上は相関するが因果関係がない疑似相関にあたる。ちなみに因果関係はアイスの売上も熱中症患者数も気温にある。
では、なぜ二令幼虫の死亡率は室温と関係なく下がったのか。答えは因果関係のある第三の要素があるためだろう。例えば、今回のブリードは新しい種虫、新旧種虫のクロスブリードをさせたペアが全体の三分の二以上を占める。第三の要素は種虫自体ということか。確かに新種虫の血が入る幼虫は死亡率で減少する。いや待てよ、これは因果関係の様にみえているだけかもしれない…。(吉虫)


