二〇二一年秋のブリードはキセキ的な数字を叩き出した。オオクワの産卵頭数はベストシーズンの春を上回る数値になった。はっきりとした要因は分からない。思い当たる節はあるが強引に論理立てして成功要因を作り上げないようにしている。
コロナ禍の二年間はなぜか幼虫頭数が減少して苦戦した。それだけに二〇二一年秋はパラダイムシフトと呼べる状況だった。春のブリードは過去の統計によると秋に比べ約二五%の幼虫数の増加がある。それにも関わらず、過去二年を上回るばかりか、夏の最高記録さえも簡単に超越した(グラフ1)。
スタートダッシュは尋常でなく最初の二週に渡り一ケース(コバシャ小に菌床半分を詰めた産卵セット)から割出幼虫数の平均が一四頭を超えていた。言うまでもなく、この様なことは過去にない。しかし、記録的な好成績は五週目以降に仕掛けた種虫、特に能勢YGや阿古谷の血統が振るわず幼虫数を落としてしまった。副要因としては外気の低下による室温の不安定化が考えられる。
今回の結果について思い当たる要因は次の三点である。(一)種虫のサイズを最大級でなく二~三ミリ落としたこと、(二)パワフルな超音波加湿器に変えたこと、(三)独自の産卵温度帯二十六~二十八℃に合わせる努力をしたことである。(二)と(三)の環境管理は当たり前のことをしただけだ。(一)の種虫サイズの変更はデータから編み出した考えでありブレークスルー的な発想だった。
さて、これは成功方程式と言えるだろうか。科学的な考えは(A)全て要因、(B)どれが要因、(C)どれも要因でないとなる。現時点ではあくまでも産卵数を増やす要素の仮説が強化されたに過ぎない。ただ、ホモサピエンスは浅はかな論理立てによるストーリー化を好む。確かにストーリー化は大衆受けも良いが、惑わされずに歩みたい。(吉虫)