幸福の虹

ブリードルーム

五月九日は一日中降った雨が夕方にあがり、月夜野きのこ園の南に見える赤城山を覆うような大きな虹が架かった。いつもなら億劫がるところだが、一キロほど車を走らせあとに、私は集落の路肩に車を止めた。虹はカメラフレームに写り込み記録された。流れ星でないが、虹は幸運のサインのように思えた。私はシャッターを押す度に願いを込めた。

ゴールデンウィーク中は仕事だったので、いつもよりデータと向き合えた。近年のデータをまとめると、上手く行っていないデータもあったが、半分以上は好転していた。この二年は産卵数と羽化数の減少で苦しんだが、試練を乗り越えるため、能力を向上させるため、無我夢中に取り組んだのだった。

アリストテレスの『ニコマコス倫理学』は、幸福のために徳を積むことを薦めている。ギリシャの賢人が言う徳(アレテ―)は日本人が考える道徳的なものと一線を画し、卓越性、有用性、力量という意味がある。人のアレテ―は本来の個性と置かれた状態、役割の中で最大限のパフォーマンスを出せることである。虫のアレテ―は環境下で種としての本来性を十分に発揮できる状態にあることをさす。

ブリーダーは対象の生物を卓越的かつ有用性を高めて繁殖させることが求められる。では、ブリードされたクワガタの徳は何だろうか。ブリード種はブリーダーが関わるため、人間社会に役立つような有用性を備えることが求められる。こう考えていくと徳とは目的と手段によって変わるものだと気付く。

徳の高め方は2つある。一つは知識の習得、もう一つは習慣によるものだ。習慣とは普段から能力を高めるため学び、どんな時でもその学びを続ける力だと思う。データは私がどれだけ徳を積めたか教えてくれる。虹は稀に目にすることができる現象である。次に出会うまで、私は幸福を呼び込む習慣を身につけ、徳を高めることができているだろうか。(吉虫)

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