二○二二秋のブリードは大きな転換点になる。オオクワガタのブリードは全ての産卵セットをオオヒラタケ系からカワラに切り替える。オオヒラタケ系の実績は十分あるが、カワラとなると未知な部分も残る。ここまでのテストは順調だったが、環境の悪い東京マンション実験でトラブルがあった。
メスを産卵セットに入れてから一週後に、カワラ産卵セットの表面は水浸しになっていた。発生確率は十一分の二で一八%だった。その内一ケースで、ゼリーは逆さになり、色がオレンジに変色していた。表皮は硬くなりゴム化が三㎝ほど深く進んでいた。メスはもぐれずに表面の水にひたっていた。
一方で正常な産卵セットは表皮が比較的硬いものも多かったが、メスがアゴで噛みちぎりもぐっていた。菌糸の表皮は隆起して地割れしたような感じだった。ゴム化は起きていなかった。
ゴム化した表皮は防水効果があり、下部への浸水を防いでいた。カワラ菌は過剰な水分から自らを守るため、水を通さない表皮を形成する可能性がある。別の言い方をすれば、カワラ菌床または菌糸ビンは過剰な水分でゴム化する。この現象はオオヒラタケ系の菌床でみられないことであり、今後の実験テーマとしたい。
さて、カワラの産卵セットは今回のトラブルから次の注意点と対策がある。
一、ゼリーは転倒しないように、四隅に穴をあけて差し込む。
二、表皮のゴム化進んでもメスがもぐれるように、中央部分に穴をあけておく。
特筆すべき点は暴れるオオクワのメスをカワラ菌糸の穴に差し込むと高い確率で落ち着く。メスはカワラの匂いが好きなのだろうか。実際に昨年の秋に行ったテスト産卵では幼虫数で他の菌糸を凌駕していた。秋までの時間は期待を込め最終調整を進めたい。(吉虫)