ある日、事件は現場で起きた。
「オオクワガタが逃亡しただと!」
指名手配犯♂A、♂B、♂Cはすぐに捕まった。Aは79.5ミリ、Bは76.0ミリ、Cは73.0ミリだった。これで完全解決とはいかず、どの菌糸ビンからどの虫が逃げたかが分からなかった。
逃亡された菌糸ビンは3本、うち2本はオオヒラタケが成長してフタを押し上げていた。残り1本は虫がフタを押し上げていた。科捜研の女はいないので、DNA鑑定で一発解決とはいかない。
それならば遺留品で捜査するしかない。キノコが生えていない菌糸ビンは、蛹室がしっかりと残っていた。蛹室を計測すると、サイズは74ミリだった。
「フタを押し上げた逃亡犯はCだ!」
しかし、キノコが生えた菌糸ビンは蛹室がつぶれ計測不能だった。菌糸ビンに貼られた個体番号を手掛かりに、兄弟のサイズを調べてみた。一方の個体番号は79ミリを頂点に平均78ミリのオスを輩出していた。もう片方は最大74.5ミリ、平均73.8ミリだった。
私「単純に79.5ミリのAは平均78ミリの個体番号だろう。でも、安易すぎないだろうか。」
相棒「…わかんねーっす」
細かいことが気になる私は、以前にアゴと胴体の遺伝について調べていた。比率α(大腮の長さ:大腮より下の体長)は兄弟で違いが出る。比率β(前胸背版の幅:大腮より下の体長)は兄弟で近い比率になる。
この仮説を前提にすると、比率計算の結果は真逆の答えだった。76ミリの逃亡犯Bは、平均78ミリを輩出する血筋と判定された。
「平均サイズを信じるか、胴体比率を信じるべきか、それが問題だ。」
とりあえず、逃亡犯AとBは、比率に基づき「推定」と備考欄に記載して、管理表に登録した。この事件は時効になる前に解決してやると心に決めた。
ちなみに、大きく育ったオオヒラタケは、みそ汁のダシとなり、おいしくいただいた。(吉虫)