月夜野きのこ園ブリードルームでは、月夜野きのこ園での昆虫の飼育や産卵などについてを発信していきたいと思います。第16回は平成27年オオクワガタペアリング実験~東京マンション編についてです。
マンションでペアリング
暖冬には大雪が降ると言われながらも突然辺りが真っ白になり四苦八苦した1日を終えた。外は凍結している深夜に頭の中を夏に逆戻りさせこの記事を書いている。平成27年夏に東京のとあるマンションでペアリングした。新しい試みとして農業等で使われる本格的な温度湿度計を導入し、週2ペア計14ペアを6月1日から1週間おきに仕掛けて行った。メスは小ケースに菌糸を敷き詰めたもの(SRと呼ぶ)へ3回に分けて産卵させた。相関係数を活用し産卵数と温度などの計測データの関係性を掘り下げた。取れたデータを吟味すると「どこまでの暑さまで産卵が可能だったのか」という数値が拾い出せた。
「産卵数」と「ペアリング期間中の最低室温」が強い負の相関として現れた(表1)。負の相関とは最低室温が高いと産卵数が減るという結果だ。別の言い方をすれば最高温度がどれだけ高いかよりも最低温度の高さが重要だったと言える。
実際に最低温度が30℃前後まで高くなるとメスの種虫が弱ってしまい産卵ができないまま亡くなってしまった。
相関関係
「ペアリング日」と「ペアリング中の平均温度」も「産卵数」と中の上程度の負の相関関係にあった。まとめると初夏の気温が低い時期にペアリングを済ませるのが良いという結果だ。昨年の場合は7月入ってから平均温度が30℃を超えてしまいペアリングには過酷過ぎたようだった。同時にどれくらいまで低い温度でペアリングが成功するかも気になる。これは平成28年の課題としたい。
それ以外に産卵数と高い相関関係を示す項目は見つからなかった。そこで「中間の強さ(0.4~0.7)」の範囲で何かないかと探した(表2)。この範囲の負の相関として見つかった項目が唯一「産卵数」と「産卵セットに入れてから最初の1週間の平均温度」だった。つまり、交尾後に産卵するタイミングでの平均温度が比較的重要だということになる。温度が高過ぎると産卵数が減少する。具体的には平均温度30℃前後が危険ラインと読み取れる。冬の温度管理の話題は毎年盛り上がるが、夏も同様に温度管理が重要ということになる。
測定器を購入しデータを収集し分析してみたが産卵数と強い相関関係にある斬新な項目は発見できなかった。なぜだろうか。データを見ていて気付いたことだが、ある虫は30℃超えた環境で産卵しない、または死亡という結果になったが、一方で別個体はしっかりと産卵している。
遺伝の違いかもしれない。生物は変化する環境の中で可能な限り子孫をつなげていく。あるグループが死んでも別のグループが生き残るようにDNAに多様性を持たせていると聞いたことがある。この実験結果は少量のデータながらも自然の摂理を数値化していたのかもしれない。(吉虫)