
二〇二三年はクワカブ研究所にとって最悪の年だった。改めてオオクワガタの年次集計を行うと、各種データは軒並み悪化していた。要因はすでに分かってる―生産手法を虫より人(工数)に合わせて変更したためだ。唯一上昇した数値は「0対策」だった。
「0対策」はクワカブ研究所に浸透した造語で、ペアから一頭も幼虫が採れない場合の対策をいう。メスはペアを解消、別のオスと交尾させて産卵に再挑戦する。交尾の成功率は二二年まで四~五五%で推移していた。ところが二三年は六二%、二四年は途中経過だが七四%と上昇している。
理由に心当たりがある―虫が管理される部屋の室温を低めに変更した。空調は故障に伴い二二年五月に家庭用から低温設定が可能な業務用に変更された。それまで虫の部屋は一九~二一℃に設定してたが、入れ替えを機に一八℃、一一月に一六℃まで下げた。なぜなら、この頃は餌やり、冬眠セットを組む工数が不足していたためだった。
低温の成虫管理は苦渋の決断だったのだが、メリットは餌やり回数を減らせ、死亡率が活動温度にいるよりも減らせた。最も都合が良い事は一度冬眠セットを組んでおくと、ペアリングする二~四週前まで餌やりをほとんどせず、生存率が高い状態で交尾に持ち込むことができたことだった。
人に都合良い事は前述の通り大きな副作用があった。成虫を長期間低温状態で管理すると、個体は産卵準備に通常より時間がかかる仮説が成り立つ。最初のペアリングが三月二週目から六月一週目、「0対策」が十二月一週目から三週目だったので、一部のメスは九ヶ月以内で即ブリード可能な状態に入ったといえる。また、これ以外の副作用も二三年の問題と関係している可能性があるので調査を続ける。本件の学びはどんな状況に追い込まれようが「虫に合わす」ということだ。(吉虫)


