
「痛い!」ブリーダーの九割はカブトやクワガタのツメが肌に食い込み、しがみつかれる経験をしているだろう。健康な個体ならば多少の痛みも許容できる。大量ブリードの悩みは奇形、翅異常、フセツや肢の欠けなどの異常だ。実験結果は問題の多くが蛹室で発生し、累代しても症状が再現しない異常ばかりだった。しかし、この一、二年はもしかしたら再現性がある?と思える症状に出会った。
その症状は過去記事「本当に累代を重ねた結果か?前編(二四年八月)」、「後編(九月)」で書いた「ツメ開かない」という症状だった。詳細は割愛するが、症状はツメが閉じたままで、フセツに力が入らないという余り聞かないもの。筆者は記事と同時並行して、症状のある個体をペアリング、幼虫育成していた。
「ツメ開かない」の子は昨年末からメス九頭が羽化し、現在七頭が生きている。その内六頭をフセツの状態を確認したところ、三分二の中肢又は後肢に似た症状が出ていた。「似た症状」と書いた理由はツメを何かに強引に引っかければ開くからだ。そこで「スポンジ実験」を行った。
そのテスト内容は中肢と後肢のツメをスポンジに引っかけ軽く揺さぶり、個体が落ちるか確認する。「ツメ開かない」はツメの状態よりフセツに力が弱い点に共通する。加えて正常な個体も同じ実験をして比較した。結果は正常な個体が一○○%落ちないのに対して、異常のある個体は五○%~一○○%の確率で落ちた。落ちやすい個体はフセツが小さく且つ弱く、欠けているものも含まれていた。
この症状は二世代目でも再現された。推定原因は前の記時にも記した五世代もの間、ツメを使わない環境での進化(不要な機能を失う)が有力でないか。今後はもう一世代ブリートすることと、自然界の個体の様に木にしがみつく生活させ力が戻るか試してみたい。筆者は「痛い」と思えるツメを切望する。(吉虫)


