I could have done

マガジン-201806-1-DSC01104 ブリードルーム

月夜野きのこ園ブリードルームでは、月夜野きのこ園での昆虫の飼育や産卵などについてを発信していきたいと思います。第44回は「I could have done」についてです。

天寿は全うしたけれど

先日、二〇一五年九月に羽化したオオクワガタが亡くなった。この個体は七三・五ミリのオスで、フセツが欠けB品出荷待ちの状態に置かれていた。生存年数からするとこの個体は、ある程度天寿を全うしたと言える。しかし、生存理由の一つである子孫を残すという行為をせずに、この個体は一生を終わらせることになった。

I could have done

年数千頭を相手にすると、何らかの欠陥を持つ個体が生まれない年はない。時に羽化直後にフセツが落ちてしまうケースもある。それらの個体は可能な限り行き先を見付けている。しかし、交尾ができないほど奇形で生まれる個体もあり、その場合は手元に置いて一生面倒を見ることにしている。

今回亡くなった個体は交尾が可能であったが、自身の忙しさにかまけて行き場を作れなかった。人は時に、人以外の生物を擬人化して考えることがある。人の一生に置きかえると、このオスはブリードルームのケース内という閉じられた世界で、忘れられた存在として亡くなったことになる。

「I could have done ~」は、「~ができたかもしれない」いう意味のフレーズだ。後から考えて、できる事がいくつもあったが、しなかった時にこぼれる後悔の念だ。今も同様な理由でブリードルームの一角に生きる個体たちがいる。今年生まれて来るそのような虫たちも含め、心を新たに向き合おうと思う。(吉虫)

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