月夜野きのこ園ブリードルームでは、月夜野きのこ園での昆虫の飼育や産卵などについてを発信していきたいと思います。第29回は「あるがまま」が面白い!「高温血統」の誕生?」についてです。
オオクワガタ産卵の仮説と検証
データは時に裏切る。前年までのデータや経験値から組み立てた仮説が、不意打ちを食らう様に吹き飛ばされる。特徴のある面白いデータを期待しているが、ノッペラボウの様な味気のない集計結果になることもある。肝心な事は、あるがままに見ることだと示唆しているようだ。
昨年、東京の温度管理をしない一室でやったオオクワガタのブリードの結果が表1になる。
昨年まで蓄積したデータと経験則から、事前仮説は以下の2項目だった。
(仮説)その1
同じメスを1回の交尾で、3回産卵させると、1回目の産卵でもっとも産む。
(仮説)その2
最高温度が重要で、気温32℃を超えると産まなくなる。
結果を見ると、1回目の産卵が若干多いが、2・3回目の産卵と大差はなかった。また、最高温度が32℃を超えたにも関わらず、昨年まで見られた産卵数への影響が、確認できなかった。
新たな仮説
2016年の気候が影響している可能性はある。産卵中の積算温度、又は平均気温を見ると、季節の変動が少なく、平均気温の差はどの産卵期間でも僅か1.8℃しかなかった。最低気温に関しては、10月にかかった回の産卵以外は、26℃を下回ることはなかった。仮説は崩れた。しかし、あるがままに見ると、新たな仮説が生まれる。
(新仮説)その1
安定的な産卵は温度帯が重要であり、産卵数を下げる要因は、種虫の死亡によるところが大きい。
(新仮説)その2
26℃から34℃の高温域でも、安定的に産卵が行われる。但し、次の仮説を考慮する必要がある。
(新仮説)その3
毎年同じ環境でやっていると、種虫の死亡や特定のペアの産卵数0になることで、高温に適応した血筋のみが残っていく。
同じ環境でブリードを続けて8年経過している。今まで気付かなかったが、「高温血統」を作っている行為を続けているのかもしれない。
一見、面白味のないデータでも、読み込んでいくと、その背後に隠れた何を見つけられる。新たな仮説を2017年へ引き継ぎ、「高温血統」がどのように展開するか、あるがままに見つめていきたい。(吉虫)