頭で分かっている事は、心の動きで書き換えられることがある。
一昨年の東京マンション実験は、だめだと思われた後肢に異常があるオオクワガタのメスでペアリングを行った。結果は幼虫が生れ大成功だった。しかし、サンプル数は僅かワンペアで、後肢が欠損する種虫で交尾が必ず成功するか結論を保留した。翌年の同実験は、6ペアで50%の交尾成功率だった。
結果は驚きだった。心は一昨年の成功で、すべて上手く行くものだと、知らぬ間に信じていた。冷静に考えると、一昨年の結果は参考値であり、サンプル数がそろわないと結論が出せない。頭では分かったつもりでいたが、心が別の動きをしていた。驚きの正体は、自分自身の心の動きだった。
そもそも正常な種虫であっても、幼虫は必ず生まれて来るものでない。クワカブ研究所にある過去二年分のデータによると、交尾の成功率は86%であった。サンプル数は731あり、同一条件の集計結果として数パーセントの誤差で信用してもいいだろう。言うまでもなく、後肢に異常がある種虫は、必ず成功することなどあり得えず、鬼の首を取った気持ちでいた自分を恥じた。
オオクワガタの後肢は交尾に使われるため、異常があると一般的に交尾が難しいと考えられている。過去2年、6ペアの交尾実験結果は、メスのみに異常がある場合も、オスのみの場合も、50%の成功率であった。幼虫が生れる可能性は、現時点で統計的に五分五分である。また、オスとメス共に後肢異常がある場合は、サンプル数が1のため、さらなる実験が必要である。
この歩みの末路は、本当に分かることなどなく、ただ結論に限りなく近づくだけなのかもしれない。(吉虫)